アラビアータは辛いトマトソース。カレッティエッレもまた、辛いトマトソースである。
マリナーラは辛くないトマトソースだが、ポモドーロも辛くないトマトソースだ。
世の中には固有の名前がついたパスタソースが多く存在するが、その中には上記のように、「名前が違っても同じようなレシピ」のソースがある。
果たして、私たちはそれらのレシピをどのように作り分ければ良いのだろうか?
私はこの疑問に対する回答として、「名前の由来を紐解く」ことが肝要だと考えている。
すなわち、そのレシピが生まれた背景や名前に込められた由来を意識することで、自然とレシピに差が出てくるのではないか、ということである。
例えば、冒頭にもあるようにアラビアータとカレッティエッレは同じく辛いトマトソースであるが、
カレッティエッレはその名の由来として「牛や馬をひく御者が、短い時間に体を温められるように作った」という説がある。
ということは、調理にかかる時間はできるだけ短くしなくてはならない。
すなわち、パスタは細麺をアルデンテで、ニンニクの加熱やトマトの煮込み加減もごくあっさり目に、そして辛味はぐっと効かせて仕上げるのだ。
そうすると、玉ねぎと一緒にトマトをじっくり煮込んだペンネ・アラビアータとは全く異なる味わいになる。
これが、名前の由来から導かれるレシピの差なのである。
このようなレシピの進め方をする際は、当時実際にこのレシピを作っていた人々の生活背景を想像することも大切である。
例えばマリナーラソースは、「船乗り風」という意味だが、「シーフードを使ったトマトソース」という意味ではない。
これは、16世紀の大航海時代、アメリカ新大陸で発見されたトマトを活用した船上のソースであり、長期の航海に耐えうるよう、アンチョビなどの魚介類は入っていてはいけないのだ。
であるからこそ、よく煮たトマトソースとオレガノ、ニンニクの香りを楽しむシンプルで奥深いソースが出来上がるというわけである。
確かに、固定観念に囚われていては柔軟な料理はできないかもしれない。
だが、レシピの原点に立ち返り、なぜその料理が遠い昔に成立し、人々の中に定着したのかを考えることは、
決して無駄なことではないと思うのだ。
カレッティエッラのレシピはこちら: