はじめに
「パスタが作れる」というのは、単に「美味しいパスタが作れる」というだけではない、と考えています。
パスタ料理は自由な料理で、非常に多くのことを表現することができます。
例えばその日の天気や気候、自分の気分に合わせた一皿であったり、手に入った旬の食材を使ったり、あるいは土地の食文化や時代背景、料理人のポリシーを反映したものかもしれません。
レシピを試行錯誤した結果、あまり美味しくない一皿ができてしまった、ということも素晴らしい経験だと思います。
とはいえ、「パスタは自由な料理だから、自由に作りましょう」といきなり言われても、当然のことながら何をどうしたらいいのかわかりませんね。
というわけで「パスタ手帖」では、パスタ料理の基本を抑えながら、徐々に知識とスキルを身につけてステップアップしていけるような講座を用意してみました。
料理は座学だけでは上達しません。実践と知識の両輪があって初めて身に付くものです。この講座では、毎回お題となる一皿を作りながら、自然とパスタ料理に必要な知識が身についていくような設計にしています。
この講座のゴールは、「パスタ料理の基本を学び、自由に応用ができるようになること」。皆さんがこの講座を通じて、自由にパスタ料理を作り、良いパスタライフを送れるよう願っています。
今回のお題:基本のペペロンチーノ
今回のお題はパスタ料理の基本の基本となる一皿、ペペロンチーノです。非常にシンプルなパスタですが、シンプルゆえプロでも上手に作るのが難しいと言われる料理。ですが大失敗することもあまりないので、初めは肩の力を抜いて作りましょう。
今回学ぶのは、下記のポイントです。
- ニンニクの使い方
- 唐辛子について
- パスタの茹で方
- ソースのとろみについて
ペペロンチーノについて
調理に入る前に、ペペロンチーノという料理について少し理解を深めましょう。ペペロンチーノの正式名称は「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。
イタリア語でアーリオはニンニク、オーリオは油、ペペロンチーノは唐辛子という意味ですので、直訳で「ニンニクオイルと唐辛子」という意味のパスタ料理です。
貧困の中にあっても少ない材料で作ることができる、という意味で、「絶望のパスタ(pasta alla disperata)」と呼ばれることもあります。

ニンニクについて
まずは材料について解説していきます。ペペロンチーノは、基本的にはニンニクと唐辛子、オリーブオイル、塩、イタリアンパセリもしくはパセリだけで作ります。
アンチョビや胡椒などを加える場合もありますが、今回は基本を学ぶのが目的ですので、プラスアルファの材料は加えません。

パスタ料理で最も重要な材料、それがニンニクです。特に日本人はニンニクの香りが大好きなので、ほぼすべてのパスタ料理にニンニクが入っていると言っても過言ではありません。
ニンニクの下処理は簡単です。外側の皮を剥き、中身を半分にカットして、必ず緑の芽をとってください。(個体によって、ない場合もあります)
芽は青臭い香りがするので、料理の邪魔になるからです。できれば実際に食べてみてください。あまり美味しそうではない香りがすると思います。
今回の重要なポイントですが、ニンニクのカットの仕方は、<みじん切り・スライス・潰す>の、大きく3パターンあります。それぞれ見ていきましょう。
まず、包丁で叩いて細かい粒にするのがみじん切り。しっかり香りが出てニンニクが満遍なくソースに絡むので、基本的にはこの切り方で調理をすればOKです。粒子が細かいので、焦げやすい点に注意しましょう。
次に、ニンニクを薄くスライスにする方法です。スライスを軽く色づくまでオイルで加熱して別のお皿などに取り出し、カリッとしたガーリックチップを作ることができます。
ガーリックチップは仕上げにパスタ全体に振りかけるとニンニクの香りがガッツリ効きますので、かなりジャンキーな仕上がりになります。
最後に、包丁の腹などでニンニクを潰す方法です。この場合、ニンニクはある程度形を保ったままの状態で加熱されることになるため、焦げづらいというメリットがあります。
ですので、「ニンニクと一緒に加熱したい食材があるけれど、ニンニクをみじん切りにすると先に焦げてしまう」という場合にこの方法を使います。
※例えば、ニンニクとベーコンを同時に加熱してソースを作る場合など

唐辛子について
次に、唐辛子についてです。唐辛子の大きな役割は辛味の追加ですが、実は旨味成分のグルタミン酸も含まれているため「出汁」の役割もあります。
ですので私は、よほど唐辛子が合わないパスタ以外は、できるだけ唐辛子を入れるようにしています。市販の唐辛子の形状は、大きく3通りあります。
- ホール(丸のまま)
- 輪切り
- 粉末(一味唐辛子・カイエンペッパー)
唐辛子は種の部分が一番辛く、細かくなればなるほど辛さが出ます。
まずホールですが、そのまま使用する場合は(長時間煮込まなければ)そこまで辛さはでません。
先ほど書いたように、旨味をプラスするという意味合いでホールそのまま加えるということも多いです。もう少し辛さを出したい場合は、ホールを手で半分に折り、中の種ごと使うと良いでしょう。
輪切りや粉末はより辛味がダイレクトに出ますので、アラビアータなど作る際はこちらを使いましょう。ちなみに、よく言う「鷹の爪」というのは唐辛子の品種名ですので、これも覚えておきましょう。

オリーブオイルについては、まずは一般的にスーパーで売っているようなリーズナブルなお値段のものがあれば大丈夫です。価格帯によるオリーブオイルの違いについては、また別の機会にご説明します。
パセリとイタリアンパセリについても、次の講座でご説明します。今回は、手に入りやすいパセリがあればOKです。できれば生のパセリが好ましいですが、瓶詰め・乾燥のものでも十分です。
パスタについて
調理については、分量など細かい部分までここでご説明はしません。この講座では、どの工程を・何のためにするのか、という部分に重点を置いてご説明をします。
詳細なレシピについてはこちらを参照してください。
まず、今回はそこまで時間がかかるソースではないので、パスタを茹で始めてOKです。時間に追われるのが不安な方は、もちろんお好きなタイミングで途中から茹で始めていただいても結構です。
使うパスタですが、いわゆる普通の「スパゲッティ」、お家にあったりすぐ手に入るものでOKです。マカロニやペンネなどのショートパスタは今回はやめておきましょう。
迷ったら、「ディチェコ」の「NO.11」もしくは「NO.12」を買いましょう。どこにでも売っている、青い袋のパスタです。

パスタを茹でるお湯には、基本的には「味見をして塩分を少し感じる程度」の塩を加えます。これは、パスタに下味をつけるためです。
下味がついていないと、ソースと絡めた際にパスタ自体の味が浮いてしまい、イマイチな味わいになってしまいます。ただし、パスタの茹で汁は水分調整でソースに加えたりもしますので、塩の入れすぎには注意です。あくまで「うっすら塩分を感じる」程度で十分です。
茹で時間は、袋に書いてある時間の1〜2分ほど手前、ほんの少し芯を感じられる「アル・デンテ」を目指しましょう。ちなみに、「アル・デンテ(al dente)」はイタリア語で「On the Teeth(=歯にあたるくらいの硬さ)」という意味です。

ニンニクの加熱について
今回は、ニンニクはみじん切り、唐辛子は輪切りを使います。ニンニクの香りを十分に香らせ、ある程度の辛味も感じられるような組み合わせです。
まず、ニンニクとオリーブオイルを冷たい状態のフライパンに加え、弱火で加熱していきます。ここで重要なのは、必ず「冷たい状態」のフライパンから加熱する、ということです。
先にも記載しましたが、ニンニクは焦げやすい材料ですので、熱々の状態のオイルにニンニクを加えると、あっという間に焦げてしまいます。ですので、弱火でじわじわと加熱する必要があります。
ニンニクを熱していると、じわじわと泡が出てきます。これは、ニンニクの中の成分がオイルの中に溶けてガーリックオイルが作られている状態です。
輪切り唐辛子は、ホールと比べて若干焦げやすいので、今回はニンニクを加熱し始めてから30秒ほど経ったところで加えましょう。
これは、ニンニクと唐辛子の成分をオイルに移し、ペペロンチーノベースを作るという作業で、かなり多くのパスタで行う工程ですので、よく覚えておきましょう。
和食でいうところの、「鰹節と昆布で出汁をとる」工程に似たイメージです。

ニンニクの火の通し加減についてですが、いわゆる「きつね色」までいくと行き過ぎです。軽く茶色がでかけてるな、くらいでちょうど良いです。
ニンニクがOKかな、というところでパスタの茹で汁を少し加え、火を止めます。この工程には、水分を加えることでこれ以上ニンニクに火が入るのを防ぎ、パスタから茹で汁の中に滲み出た小麦の旨味成分をソースにプラスする役割があります。
また、パセリは加熱しすぎると爽やかな香りが飛んでしまいますので、火を止めたこのタイミングでフライパンに加えます。
仕上げ
これでソースの完成です。あとは、茹で上がったパスタをフライパンに加え、よくかき混ぜるだけです。
この時、パスタをフライパンの端に寄せ、ソースの状態を見てみましょう。ベストなのは、油分と水分がちょうど良く混ざり、とろりとした状態です。
水っぽすぎる場合は少し加熱して水分を飛ばし、油っぽすぎる場合は茹で汁を加えて調整してみましょう。
ソースとパスタがよく絡んだら、必ず味見をしましょう。今回のペペロンチーノのように、塩気のある食材(生ハムなど)を使っていない場合は、ちょっと塩味が足りない場合があります。ですので、最後の塩で味を仕上げます。

さて、いかがだったでしょうか。
今回は基本のペペロンチーノをご紹介しましたが、この基本の一皿だけでもかなり多くのことをお伝えできたのではないでしょうか?
次回のお題はペペロンチーノの応用編、ズッキーニと生ハムのペペロンチーノです。
お楽しみに!
※次の講座はこちら