子供の頃、アラビアータというのはアラビア半島のアラビアが語源だと思っていた。

シルクロード帰りのよく日焼けしたイタリア人が友人と話している。

かのアラビアの地には、灼熱の大地に灼熱の太陽。上からも下からも熱線が降り注ぐ。

気まぐれで辛く作ったトマトソースパスタを食べて、彼は思ったのだ。

このソースの味は太陽の砂漠に香るスパイスの味わい、まさに「アラビア風」だと。

さて、アラビアータはローマ発祥のソースだが、イタリア語で綴ると「arrabbiata」。

これは「怒りん坊」という意味であり、中東っぽいソース、という意味では決してない。

辛いソースを食べると顔が赤くなるから、というのが由来だ。

本場イタリアでは、実はそこまで辛くしないのが本流ということだが、

私がアラビアータソースを作るときはしっかりと辛味をつける。

ホールの唐辛子でオイルに辛味を移し、途中で輪切りの唐辛子も追加。

煮込みながらカイエンペッパーもたっぷり振り、仕上げに黒胡椒も削る。

これを食べると怒るどころではなく、少し涙も出てくる。

けれど大変美味しくて笑顔にもなるという不思議な一皿なのだ。

そして、本当は関係がないということをわかっていながら、

やっぱり私はこの料理を食べながら、行ったこともないアラビアの砂の街を思い起こしてしまうのだ。

思えば、唐辛子もトマトも原産はアメリカ大陸。

大航海時代に初めてヨーロッパにもたらされたものである。

イタリア・アラビア・アメリカ、そして日本。

色々な風景や文化がソースに溶けているような気がして、私はなんだか楽しい気持ちになってしまうのである。

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