パスタ・グリーチャ(単にグリーチャとも呼ばれる)は、日本ではあまり馴染みのないパスタ料理だが、
パスタの本場イタリア、特にローマでは非常にメジャーな料理とのこと。
その材料は山羊のチーズであるペコリーノ・ロマーノ、豚の頬肉であるグアンチャーレ、そして黒胡椒とシンプルである。
グリーチャという言葉の由来に関しては、
「黒胡椒でソースが灰色(grigio)になるから」「Griscianoという村が発祥だから」等、諸説あるが、
今回は以下の説を採用してみよう。
ーーローマ教皇がイタリアを統べる時代、地方から都市に食品を売りに来る業者がいた。
彼らの多くは現在のスイス、グリソン州から来ていたため、「gricio」と呼ばれていた。
そんなgricioで手軽に購入できる食材、すなわちペコリーノ・ロマーノ、グアンチャーレ、黒胡椒を使ったパスタがgricia(グリーチャ)と呼ばれるようになったのである。ーー
なんとも情緒的な由来ではないか。当時の風景が目に浮かぶ。
石畳の帝都ローマ、テルマエ帰りの人々が今夜の晩餐のための食材をgricioで買っていく。
空をオレンジ色に染める夕陽はコロッセオに落ち、悠久の時を刻む。
今夜の献立は軽めの赤ワインにアーティチョークを焼いたもの、そしてグリーチャ。
北方の厳しい寒さと針葉樹林は豊かな畜産物を育み、人の営みによって都市にもたらされる。
物々交換から貨幣経済への移行、発展。
人とものが集まって都市となり、そして都市が人とものを呼ぶ。こうして大都市が形成された。
ここに、経済のダイナミズムを感じざるを得ない。
Gricioで働く北方出身の商人たちは、テヴェレ川に沈む夕陽を眺めながら、街に響く夕方5時の教会の鐘をききながら、一体何を感じたのだろうか?
シンとした郷愁・発展する都市への希望・明日の生活への不安・・・
案外それは、今晩のグリーチャにニンニクを入れるかどうか、という問いだったのかもしれない。
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