今回のテーマは「プッタネスカ」「アマトリチャーナ」の2品、前回ご紹介した「基本のトマトソース」を応用したパスタです。
どちらのソースも代表的なトマトソースですが、基本のトマトソースを活用すれば簡単に作ることができますので、基本のトマトソースの便利さを実感していただければと思います。
※前回の講座はこちら
※詳しいレシピ(プッタネスカ)はこちら
※詳しいレシピ(アマトリチャーナ)はこちら


それぞれのソースについて
前回作ったトマトソースには、動物性のタンパク質が入っていません。これに動物性の味や香り、旨味を付与していくことで、それぞれのソースに変化させていきます。
今回作るパスタはどちらもトマトベースのパスタですが、プッタネスカは【アンチョビ・オリーブ・ケイパー】が入ったトマトソース、一方アマトリチャーナは【豚肉・チーズ】が入ったトマトソースです。
注目していただきたいのは、どちらのソースにも旨味が出る食材が複数入っている、ということです。
プッタネスカはアンチョビの魚介の旨味に加えてオリーブのじんわりとした独特の味わい、アマトリチャーナは豚肉とチーズの二つの動物性タンパク質の濃厚な旨味が入っています。
基本のトマトソースの時点で、しっかりトマトの旨味と甘みが味わえるソースになっていますが、さらに食材の旨味を複数追加することで、複雑で奥行きのある味わいを作っていく、というわけです。

パスタソースの名前について
今までの講座に出てきたパスタは「基本のクリームパスタ」だったり「ズッキーニと生ハムのペペロンチーノ」だったりと、特別な名前はついていませんでした。
しかし今回扱う2つのパスタには、固有の名称がついています。
プッタネスカはイタリア語で「娼婦風」、由来は諸説ありますが「かつて娼婦がお客さんを相手にした翌朝、家に常備してある材料を使って作ったソース」という説などがあります。
アマトリチャーナは地名に由来するもので、ローマがあるラツィオ州のアマトリーチェという町が発祥のソースで、現地で取れる食材を使ったソースとなっています。
パスタソースの名前の由来を知ることは、単に「豆知識として楽しい」というだけではなく、「そのソースの本質を知る」ということであり、味だけでなくその背景含めてパスタを味わう、ということでもあります。

例えば「カレッティエッラ」と呼ばれるトマトソースがあります。
これはイタリア語で「御者(牛や馬を引く仕事の人)風」という意味で、「寒い冬、御者が仕事の合間の短い時間に体を温めるために作ったソース」というのが由来とされています。
この場合、「短い時間」で作られたという背景を考えれば、トマトソースの煮込み時間は短くシンプルに、かつパスタも細いパスタを使ってあげるのがリーズナブルです。また「体を温める」ということですので、唐辛子はピリッときかせ、精がつくようにニンニクも効かせてあげましょう。(そして食べる際には、雪の降る石畳の寒い夕暮れを思い浮かべて食べてみてください)
似たような材料を使うパスタソースでは、ともすれば「このソースとこのソース、どこが違うんだっけ??」となってしまいがちですが、上記のように由来を考えることで、必然的にレシピの方針も決まってくるのです。
※カレッティエッラのレシピはこちら

今回のお題の2皿であれば、例えばプッタネスカであれば「家に常備してあるもので作った」という背景から、肩肘張らない気軽な気持ちで作ってあげましょう。また、家に常備してある他の食材があれば、それを入れてあげても立派なオリジナルのプッタネスカです。
アマトリチャーナであれば、一度試しに「アマトリーチェ」とGoogle検索してみましょう。「こんな街並みの中で食べられてきたパスタなのか…」と、一段深くパスタを理解することができますよ。

アンチョビ・ケイパー・オリーブについて
今回はプッタネスカの材料である、アンチョビ・ケイパー・オリーブについてご説明していきます。
まずアンチョビは、カタクチイワシの身を塩漬けにして発酵・熟成させたもので、オイル漬けやペーストの状態で売られています。
魚醤に近い旨味と塩分が含まれますが、東南アジアの「ナンプラー」などと比べてそこまで癖がなく、ズッキーニなどの野菜にもよくマッチします。
「ズッキーニと生ハムのペペロンチーノ」の回でも軽くご説明しましたが、このような旨味成分を1つ・2つ加えてあげると、パスタ全体の味わいがグッとグレードアップします。
次にケイパーです。パスタ以外の料理ですと、スモークサーモンの上に乗せてあるのを見ることが多いかもしれません。
こちらは地中海沿岸に自生する低木の蕾を塩漬け・酢漬けにしたもので、フランス料理でもよく使われます。ピクルスのような独特の香りで、ソースの味をユニークにアレンジしてくれます。少しツンとするニュアンスで、魚介類の他にマヨネーズなどにもよく合う食材です。
最後にオリーブです。実際に木を見たことがある方も多いかもしれませんが、常緑樹の実の部分で、幅広くイタリア料理に使われます。こちらも独特の植物らしい旨味と香りが特徴です。
市販のものにはブラックとグリーンがありますが、ブラックは完熟してから、グリーンは完熟前に収穫したもので、グリーンの方が少しアクが強いです。
今回使うこれらの食材は、例えば「〇〇の食材を使ってペペロンチーノを作るけど、何か一味足したい…」というような時にアレンジで入れたりできますので、「プッタネスカ」の由来の通り、パスタをよく作る方であれば冷蔵庫に常備してあげても良いかと思いますよ。

パンチェッタについて
アマトリチャーナには、パンチェッタ・もしくはベーコンを使用します。これらの食材は、アンチョビやチーズ、生ハムなどと同様、ソースに塩分と旨味を供給してくれますので、パスタの味わいをグッと底上げしてくれます。
まず、パンチェッタとベーコンの違いですが、ざっくり「燻製されているか、いないか」と認識いただければ間違いありません。
どちらも豚バラ肉を塩漬けにしたもので、ベーコンは燻製の香ばしい香りがあり、パンチェッタはより肉のジューシーさが感じられます。この2つの食材は味にそこまで大きな違いがない(好みの範囲内)ため、それぞれ代替可能です。
どちらかといえばベーコンの方が手に入りやすく、ご自宅の冷蔵庫にあることが多いかと思いますので、使用していただくのはベーコンでも結構です。機会があればどちらも試してみてくださいね。
次にパンチェッタの加熱方法についてご説明します。
パンチェッタの実物をよく見ていただければわかりますが、豚バラ肉というのは脂身が多い部位です。これが旨味のもとにもなりますが、加熱が不十分だと食感・香りがイマイチになってしまいます。(グニッとした生の脂身は、あまり食欲をそそらないですよね。)
ですので、脂身はオイルの中でじっくり弱火で加熱し、カリッとしてくるまで火を通す必要があります。
なお、講座その1「基本のペペロンチーノ」でもお伝えしましたが、例えば「ニンニクとパンチェッタを同時に加熱したい」場合、ニンニクをみじん切りで使ってしまうとニンニクが先に焦げてしまいますので、ニンニクは必ず包丁で潰して使うようにします。

調理工程
冒頭にも書いた通り、今回は前回作った基本のトマトソースをベースに調理していきます。
が、もし手元にトマトソースがないよ/作るのが面倒、という方は、トマト缶を加えるだけでもOKです。料理に「こうしなければいけない」というルールはありませんので、生活スタイルや仕上がりのお好みで自由に作ってみてください。
実際の調理は簡単です。どちらのソースもまずペペロンチーノベースを作ります。アマトリチャーナの場合は、パンチェッタ・ニンニク、そしてローズマリーをオイルの中で加熱します。
ローズマリーは初登場のハーブですが、肉類によく合うちょっと甘い香りのするハーブで、こちらもパスタによく使われるものです。室内での栽培も簡単ですので、ご興味があれば鉢植えも検討してみてください。
弱火でじっくりとこれらの材料を加熱してあげることで、ソースに食材の旨味や香りが溶け込みます。パスタ料理の基本的な作業です。
プッタネスカの場合、オリーブやケイパーにはそこまで火を通す必要がないので、ニンニクはみじん切りでOKです。
そして、それぞれ食材に火を通してソースのベースができたところで、「基本のトマトソース」を加えて軽く煮詰めれば完成です。
アマトリチャーナの場合は動物性の濃厚な味わいが特徴ですので、さらにバターとチーズを加えてあげましょう。プッタネスカは魚介類のアンチョビが入っていますので、バターやチーズは不要です。
実際に2つのソースを食べてみると、アマトリチャーナは濃厚でどっしりとした味わい、プッタネスカはちょっぴり酸味が効いてすっきりとしつつ旨味の強い味わいと、それぞれ違った美味しさが感じられます。
同じ基本のトマトソースからの派生で、簡単に本格的なソースが作り分けられる、ということをご紹介いたしました。
トマトソースを応用したソースはもちろん他にもたくさんありますので、次はどんな食材を合わせようかな?と楽しみながら作ってみてくださいね。
次回は、基本のクリームソースをご紹介します。
※第5回はこちら